・くりえいた〜
・第12話「2月 バレンタイン」


 2月に入ると、なにやら女の子の動きが妙な感じになって来る。それもそのはず、2月中旬の一大イベント、聖バレンタインデーが控えているからだ。お菓子メーカーの策略との説もあるこのイベントだが、もはやクリスマスと同じく日本の文化に定着してしまった感がある。
 あずさの学校も、女の子同士で誰にあげるだの、あの人には手作りにするだの、いろいろと話のネタは尽きない。
「あずさちゃんは、もちろん手作りにするんでしょ?」
「えへへ、うん。たぶんそうすると思うよ。あやちゃんは?」
「私は、そういうのってあんまり上手じゃないから、買ってすませるかも」
 学校の帰り道。同じクラスで仲の良い、あずさ、あや、美穂の3人がその話をしながら帰る。
「…売ってるの溶かして作れば、けっこう簡単だよ…」
 見た目はおとなしい美穂だって、きちんとバレンタインにあげる相手は居るのだ。
「美穂ちゃんは、今年も手作りだもんね」
「…うん」
 あずさの言葉に、美穂が少し頬を染める。
「…あげるのって、やっぱり籠原先生なの?」
 美穂が籠原先生と付き合っていることを、噂でしか知らないあやが聞いてくる。
「…それは秘密だよ」
 はっきりと言えるわけもなく、美穂が頬を赤く染めたまま言う。でも、はっきり言ってるのと変わりはしないが。
「あやちゃんは、高校生の人にあげるんでしょ」
「うん。貴弘くんってね、チョコレートあげるとすごく嬉しそうにするから、今年もあげなきゃなって思うんだよ」
「だったら、今年は自分で作ってみない?」
「うーん、…ひとりじゃ作れないしなぁ…」
「じゃあ、みんなで作ろうよ。ね、美穂ちゃんも」
「…うん、わたしもその方がいいかも」
「うん、じゃあ決定だね!」
 ということで、あずさが音頭をとって、バレンタイン前々日にあずさと博樹の家で作る事になった。
 場所は移って、PAC−2事務所。4月の発売に向けて急ピッチで開発を進める第1開発室と、次回作の煮詰めにいそしむ第2開発室。午前午後とぶっ通しで、珍しくマジメにやった会議がようやく終わり、メンバーがミーティングテーブルで一息入れる。
「あー、…発売は今年の秋ごろか…。発売日ずらさん様に、早めに手をつけないとな…」
 疲れた表情をして、大牟田が言う。前作は発売日を遅らせることなく、満足の行く作品を作ることが出来た。ということは、やはり今回も発売日をキッチリと守り、かつ、満足のいく100%のものを作らなければならない。
「なにはともあれ、やるしかないだろ…。石井にもがんばってもらわんとな…」
 メガネを外して目頭を押さえ、ちょっと伸びをした博樹が言う。博樹が企画立案をしたゲームとしては2作目となる作品。博樹がシナリオを書いたものとしては3作目となるが、最初の作品は、今はコンシューマメーカーへ移籍している鷹野というシナリオライターが企画したものだった。約2年前。当時企画原案を書いていた鷹野が、長い間の目標であったコンシューマ用のシナリオを他社から引き受け、PAC−2協力のもと開発されたときだった。その時、鷹野が企画原案をしたものを、博樹がやるようになってからだ。その鷹野も、それの発売とともにPAC−2からコンシューマへ移籍し、博樹が第2開発室の企画原案・メインシナリオ担当と言うことになったのだ。
 ともあれ、その作品が今までサブシナリオやおまけシナリオのみだった博樹の出世作となり、今の博樹がいるのだ。なお、今もPAC−2とそのコンシューマメーカーとの協力関係は出来ていて、鷹野も時々手伝いに来たりする。
「オレは、コンシューマを書いても、コンシューマ専門にならんな」
 というのが、博樹の言葉である。どっちにしろ、PAC−2をやめる気はぜんぜんないと言うことだ。
「そういや、バレンタインも近いんだな」
 高城が突然言い出す。
「…あぁ、そうだな」
「バレンタイン絵を書かなきゃなぁ」
「そっちか」
 グラフィッカーの高城らしい言い方である。
「どーせ、オレには関係ない話さっ」
 石井と山崎がふてくされる。
「そーゆーオレも、今年も絵を書いて終わりだな」
 なにか、のんきな口調で言う高城。
「世の人間のお膳立てばっかりしてるオレ達が、バレンタインとあまり関係のない状態ってのもなぁ…」
 なにかぼやくようにいう山崎。
「大丈夫だ。エロゲーにいそしむようなユーザーだって、バレンタインは関係ない傾向にあるだろうよ」
 大牟田の発言に、皆が吹き出す。
「オマエもひどいこというよなぁ…」
 くっくっくっ、と苦笑しながら広川が言う。
「でも、おまえは、あずさちゃんがくれるもんなぁ」
「オマエだって、嫁さんがくれるだろうが」
 博樹と大牟田の言い合い。
「まぁな。由里子は、由斗にあげるほうで嬉しそうだけどな」
「由斗って、チョコレート食わしてもいいのか?」
「まぁ、まだ歯もほとんどないからな。チョコレート風味のお菓子かなんか作って食わせるとか言ってたぞ」
「社長は、嫁さんと娘さんがくれそうだよな」
 高城が笑いながら言う。
「その、笑って言ったのは何か理由があるのか?」
 高城の動きがぴたっと止まり、そっと後ろを振り返ると、不敵な笑みを浮かべた社長。
「いやあはははは。社長はいいな〜と思いまして、えへへへへへははは…」
 なんか、ビクビクしながら弁解する高城。
「まぁ、確かに嫁は毎年一応くれるけどな。袋いっぱいに。5円チョコを」
『ご、5円チョコっ!?』
 一同、口をそろえて驚く。
「娘は、最近くれん。…オレは悲しいぞ」
 オヤジの悲哀が漂ってるなぁ、と、博樹が思う。ちなみに、社長は現在40前半。大学生の息子と高校生の娘を持っている。
「あ〜、…オヤジの悲哀が漂ってますね〜、社長」
 と、高城が口に出す。
「誰がオヤジじゃいっ!」
 すぱこーん!
 オリンピック選手が放つ卓球のスマッシュのような社長のツッコミが、高城の頭にいい音を立てて入った。
「昔、知り合いの娘さんがくれてたけど、今はくれなくなったしなぁ…」
 社長が昔を思い出すように言いながら、博樹のほうをチラと見る。
「さて、そろそろ仕事に戻ろうか」
 大牟田が席を立ち、みんながぞろぞろと自分のブースへと戻り始める。
「あ、博樹」
「ほい、なんでしょう?」
「もうすぐ帰国らしいな」
「…は?」
「帰って来たら、オレも顔見に行くから。ずいぶん会ってないしな、あいつとは」
「…社長、あずさのお父さんと…。三嶋さんを知ってたんですか?」
「…一応な。…ま、それはまた今度話す」
 そう言って、社長も自分の部屋へと戻っていく。博樹、しばし唖然とする。
「…マジかい…。ぜんぜん知らんかった…」
 博樹が自分のブースに戻り、椅子に座ってしばらく考える。
「…そういえば、以前あずさも社長を見たことがあるとかって言ってたなぁ…」
 腕を組んで、博樹はしばらく考え込んだ。


「ただいまー」
「おかえり、博樹お兄ちゃん」
 いつものようにあずさが迎えてくれる。あずさの親が帰って来たら、この光景も結婚するまでしばらく見れなくなるのかもしれない…。博樹は、ふとそう思った。
「あのね。バレンタインのチョコレートをね、わたしとあやちゃんと美穂ちゃんの3人で作ろうってことになったんだけど、うちでしていいかな?」
「ん、いいぞ。いつするんだ?」
「バレンタインの、前の前の日」
「よし、わかった。じゃあ、おいしいの作ってくれよな」
「うん!」
 あずさが手をぐっと構えて、微笑みながら言う。
「あ、それとね、お父さん達から手紙が届いてたよ」
「手紙?」
「うん」
 あずさがテーブルの上に置いていた封筒を、博樹に手渡す。
「…ん」
 世に言うエアメールの封筒をあけて、中の文面をしばらく読む。一枚の便箋に書かれた、右肩上がりの字。今は中国にいるということ、3月の初めには帰ってくると言うこと。その程度しか書いていなかった。帰ってくる詳しい日は、また電話で連絡するとの事だった。
「そうか、帰ってくるのか…」
「ねえ、博樹お兄ちゃん」
「ん? なに?」
「お父さん達が帰って来たら、私、博樹お兄ちゃんとしばらく一緒に暮らせないのかな…?」
 少し悲しそうなあずさの顔。考えている事は、やっぱり同じだったのだ。
「そうだな…。普通はそうなるかもしれない。オレは、あずさを預かってるわけだから…」
 本当は、旅行に出ている間、あずさを預かっておく。それが、博樹が引き受けた事だった。でも、1年と半年ものあいだ一緒に暮らし、ふたりの気持ちが通じ合うと、元の生活には戻りたくなくなってしまう。今の生活が、すごく幸せだからだ。
「でもな、あずさ。うまくいけば、ずっと一緒に暮らせるかもしれない。お父さん達が、オレ達のことをきちんと認めていてくれればな」
 あずさの目線に合わせて、博樹がやさしく言う。
「それが無理でも、隣同士なんだ。離れ離れになるわけじゃないんだし、いつだって、オレの所に遊びに来ればいいし、お母さんが許してくれれば、泊りに来ればいい。そうだろ?」
「…うん」
 あずさをそっと抱きしめて、博樹が言いつづける。
「オレが忙しくて帰ってこれない時は、お父さんとお母さんの所に行けばいいんだし、あずさがひとりでさびしい事がなくなるんだから」
 いままで、博樹が忙しくて帰って来れない時は、家にひとりでいたあずさ。だが、これからはお母さんがいつもいるようになるのだ。
「オレは、ずっとあずさのそばにいてあげるから。なるべく一緒に暮らせるように、お父さんに話もしてみる。何事も、プラスに考えないとな。あずさ」
「うん、そうだね。博樹お兄ちゃん」
 ふたりがちゅっとキスをする。そして、もう一度きゅっと抱きしめあう。
「さ、ご飯の準備しよっか」
「うん」
 ちょっと涙目のあずさを見て、博樹はやさしく頭を撫でてあげた。


 2月12日。学校から帰ってきたあずさたちが、家へと集まる。それぞれの家から持って来た道具や、素材となるチョコレートをキッチンにあるテーブルの上に広げ、皆が作業をはじめる。
「お湯が沸いたから、おっきなボウルにお湯をいれて」
 やかんをあやが慎重に取って、ボウルにゆっくりと注いでいく。
「熱いから気をつけてね」
「うん…」
 真剣なまなざしのあや。その横で、あずさもじっと見守る。
「それでさっきのちっちゃめのボウルにチョコレート砕いたのを入れたでしょ。それをお湯を入れたボウルに漬けて、溶かしていくんだよ」
 あずさが、あやに手取り足取りしながら教える。傍らで、美穂もチョコレートを溶かしながら、デコレーションするための素材を準備していく。
「あやちゃん、これ使う?」
「え〜っと…、うん、使う」
「じゃあ、ちょっと多めに溶かしとくね」
「余ったら、適当に固めて食べちゃえばいいしね」
「うん、そうだね」
 女の子3人寄ればかしましい、じゃなくて、なかなか華やかである。それぞれ、きちんと大切な人がいて、だからこそ心をこめてバレンタインのチョコを作れるというものである。お菓子メーカーの思惑かもしれないとはいえ、きちんとこういう形でも愛というのを感じ取れるんだから、悪いことではない。
「ただいまー」
「あ、博樹お兄ちゃん帰ってきた。おかえりー!」
 夕方、博樹が帰って来る。と、あずさがエプロンをつけたまま玄関へと向かう。
「みんな来てるんだな」
 玄関に並んだ靴を見て、博樹が言う。
「うん、今作ってる最中だよ」
 博樹も台所まで行って、どんな感じか見てみる。
「あ、お邪魔してま〜す」
「お邪魔してます」
 あやと美穂、それにあずさまで集まると、やっぱり華やか。大切な人がいる3人がこういう作業をしていると、なにか嬉しそうな表情でやっているから、博樹も自然と顔がほころんでしまう。
「みんな、がんばって作ってな。あ、冷蔵庫の中の飲み物、好きに飲んでいいからね」
「はーい。ありがとうございます」
「ありがとうございます」
 それぞれ対照的な性格の3人だが、みんな仲が良い。活発なあやを、お母さん的なあずさが見て、おとなしい美穂はそれをサポートする。リビングでその姿を見ながら、博樹は、それぞれの相手は幸せだよな、と感じた。あやと貴弘という高校生。美穂と籠原先生。そして、あずさと自分。そう思うと、にやけそうになる自分に気付き、慌てて表情を元に戻した。
「よし、…これで、あとは冷蔵庫に入れて冷やすだけだよ」
 あやと美穂が見守る中、あずさが冷蔵庫の中にそれぞれの型に入れたチョコレートを入れる。そして、扉を閉めて休憩する。
「終わった?」
「うん、とりあえず終わったよ。あとは、型から出して包むだけ」
「そうか。うまくいったか?」
「うん、ばっちり! あやちゃんと美穂ちゃんは?」
「わたしも、思ったよりもうまく出来たかな〜?」
「うん。わたしも、上手に出来たよ」
 それを聞いて、博樹も一息つく。
「よっしゃ。じゃあ、みんなで休憩しようか」
「うん。じゃあ、あやちゃんと美穂ちゃんは座って休んでてね」
 博樹がお湯を沸かし、棚の中にいくつか並んでいる紅茶の缶のひとつを取り出す。いつもはティーバッグなのだが、ちょっとした時は缶からちゃんと葉を出して入れているのだ。
「あずさ。冷蔵庫の中にケーキが入ってるから、出してくれるか?」
「うん」
 ふたりで仲良く準備している姿を見て、あやと美穂が話す。
「あずさちゃんって、いいよね」
「うん…。幸せそうだよね…」
「わたしたちも、早くあんな暮らししたいな…」
「うん、…わたしもしたいな…」
 うらやましそうに、ふたりがつぶやいた。


 2月14日。朝から世の男どもは妙なテンションである。昼飯の定食に付いてきたチョコレートを1個と数えるかどうかという、作者および作者の同僚のような低レベルな話から、学校では2組のだれそれは20個を突破したとか、会社では営業2課のだれそれは社内中の女子社員からチョコレートをもらっているだのという高レベルな話まで、いろいろと聞こえてくる。
「おおかみ班の皆さ〜ん、チョコレートですよ〜!」
 昼過ぎ。第2開発室に若くて元気な声が響く。
「おー、木下女史。今年もくれるんか〜?」
「当たり前ですよ〜。皆さんには開発がんばってもらわないといけませんからね〜」
 間接担当室で総務担当をしている木下。まだ20歳になったばかりのうら若き乙女である。とある公立商業高校卒業後、この不況下たまたま募集していたPAC−2の総務担当を受け、見事に合格した。実は、小学生のころから同人娘であった事は公然の秘密。高校生の時はサークルを運営していたこともあるなど、そこそこ有名だったらしい。社長から聞いた話では、将来的に開発室へと行くプランもあるそうだ。
 ミーティングテーブルに、続々とメンバーが集まってくる。時間帯的に中だるみして、いつも休憩する時間だし、ちょうどいいのだろう。
「んぉ。今年も木下のまとめチョコレートか」
「あー、高城さん。まとめチョコレートなんてひどいですよぉ!」
 高城の茶化しに、木下がちょっと怒って言う。
「あ、…オレけっこう好きなんだよな。これ」
 博樹がパッケージを見て言う。デパ地下なんかで売られている、けっこうおいしいと評判のチョコレートだ。
「上川さんと大牟田さんと広川さんはあんまり食べちゃダメですよ〜。お家で、た〜いせつな人が作ってくれてるんですからね〜」
「そぉだぞー。わかったかそこの3人っ!」
 山崎と石井がビシィっと指差して言う。
「というわけで、これは我ら3人が全部…」
「コラコラコラ。全部持って行くんかい」
 広川が石井の首根っこをつかんで引き戻す。
「このメンバーで見事に半分に分かれてるんだからな…」
 高城がつぶやく。
「ま、ともかく休憩休憩」
 大牟田のひとことで場が収まり、皆のカップが机の上に並んだ。
「高城さん」
「んみ?」
 木下が、高城の耳元でボソボソつぶやく。隣にいる博樹は、澄ました顔をしつつもそれを聞き逃さなかった。
「それじゃあ、お仕事がんばってくださいね〜」
 元気な声で持ち場へ帰って行った木下を皆が見送ったが、高城だけ微妙に表情が違うのを、やはり博樹は見逃さなかった。
「…ふぅむ、木下も意外と物好きだな…」
「はん? なんか言いました?」
「いんや、別に〜」
 妙な態度の高城の問に、博樹はくすりと笑って言った。


「ただいまー」
「おかえりーっ! 博樹お兄ちゃん!」
 博樹が玄関を開けるなり、あずさが駆けてくる。そして、うれしい時のいつも通り。
 ぴょん!
「おかえり」
「おう、ただいま」
 博樹に抱きついて出迎える。このへんは、まだまだ若いな〜、と思う。以前よりも重たくなったように感じるが、それも成長しているせいであって、あずさも気にしていないし、博樹としてはうれしさも感じる。
「あのね、チョコレートは夜に渡していいかな?」
「うん、いいぞ」
 もう日も沈みかけているのだが、夜っつ〜のは、晩ご飯食べてお風呂入ってから、ということ。なにか、また考えがあるのだろう。あずさには。
 ということで。
 普通に晩ご飯を食べ、お風呂にも入り、1日の家事が終わったところでいつも通り博樹は自分の部屋へとこもる。が、今日は作業もそこそこに、ベッドに腰掛けて本でも読みながら待つ。
「博樹お兄ちゃ〜ん」
 8時を過ぎた辺りで、あずさがいつもどおりドアからひょこっと顔を出す。
「おう、入っといで」
 部屋に入ってきたあずさ。手にはラッピングされた箱。そして、あずさ自身もリボンが巻かれている。
「…なんか、そんなあずさ今まで見たことないなぁ…」
「えへへへへ…」
 ちょっと頬を赤くしているあずさ。左右の髪にちょっとリボンを括って、首や手首、脚やからだにもリボンがついている。ラッピングあずさ、といった感じ。
「あ、ちょっと待ってね…」
 箱を渡す前に、あずさが目をつぶって顔を近づけてくる。自分からキスを迫るというのもけっこう珍しいけど、博樹はやさしく抱き寄せてそれを受け入れる。
「ん…、ん?」
 繋がった唇から、舌が入りこんできたかと思ったら、何か甘いものも一緒に入ってきた。
「えへへ、びっくりしたでしょ?」
 唇を離して、あずさがいう。
「あずさ、おまえなぁ…」
 博樹もなんと言っていいのかわからない感じで、ちょっと戸惑う。口移しでもチョコレートを渡されたんじゃあ、ビックリする。
「はい、博樹お兄ちゃん。バレンタインのチョコレートだよ」
 あずさが箱を差し出す。あずさが巻いているリボンと同じものでラッピングされた箱。
「うん、今年もありがとな。あずさ」
「えへへ。どういたしまして」
 あずさの口の中で溶けたチョコレートを転がしながら、博樹にふと考えが思いつく。
「あーずさ」
「なぁに? ふに…」
 今度は博樹からキスする。あずさも一瞬驚いたが、すぐに目を閉じて博樹のキスを受け入れる。
「ん…、んふ…」
 さらに、口の中のチョコレートをあずさに戻す。あずさが溶かしたチョコレートに、博樹の溶かしたぶんまで加わって戻ってきたのだ。
「うに、…まさか仕返しされるとは思ってなかったよ」
 ちょっと驚いた感じで、あずさが言う。
「やることがあんまりにもかわいいからな。仕返しだってしたくなるだろ」
 博樹がくすりと笑う。
「も〜…。じゃあ、私も仕返しするもん!」
 とあずさが言って、再びキスをしてチョコレートを博樹の口に戻す。もうこうなったら、溶けてなくなるまでキスしっぱなしである。ふたりがベッドに横たわって、ぴちゃぴちゃと音を立てながらキスを続ける。口の周りはチョコレート色になり、なんかはしたないと言うか、妙にいやらしい。
「はぁ…、あずさ。…なくなっちゃったぞ」
「うん…、もう、なんだか、…すごく変な感じ…」
「あぁ、…オレもなんかフラフラする」
 チョコレートの成分のせいもあるが、ふたりがそんなことしてたらフラフラになって当然である。でも、ふたりはすることをやめようとしない。
「あずさ、…脱がすよ」
「うん、…いいよ」
 まず、あずさがまとっているリボンから外す。首とか手首についているのは、かわいいからそのままにしておく。首のリボンを見ると、締まらないようにちゃんと余裕を付けてあるあたりきちんと考えてる。
 左胸のところで結んであるリボンをほどいて、あずさのラッピングを解く。セーター、長袖のシャツ、スカートを脱がすと、あとはおそろいのしま柄のブラジャーとパンツだけなのだが。
「…な、あずさ…」
「なぁに?」
「肌にも直接、リボンつけたのか?」
「うん、今日は私もプレゼントだよ」
 リボンがブラジャー、パンツの下を通ってお腹のところで結ばれている。最近、どうもやることが大胆になってきた気がする。
「どこで、そんなこと覚えたんだ?」
「資料だよ」
「…あぁ、資料か…」
 成年コミックの中に、確かにそんなマンガがあった気がする。
「ホントは、からだにデコレーションしよっかなって思ったんだけど、博樹お兄ちゃんから却下されそうだからやめたんだよ」
「…あー、…却下すると思う」
 マンガなんかでよくあるけど、ホントにされても困るもんなぁ、と博樹は思った。
「ま、どっちにしろあずさも頂くぞ〜」
「どうぞー」
 ふたりでくすっと笑って、キスをする。
「ん…」
 キスをしながら背中に手を回してブラジャーのホックを外し、唇を離すと同時にあずさからブラジャーを取る。
「博樹お兄ちゃん、脱がすのなんか上手くなったよね…」
「いろいろ研究してるんだよ、オレだって」
 そう言って、あずさにキスを浴びせる。唇、ほっぺた、耳、うなじ…。そのひとつひとつに、あずさの口から吐息が漏れる。
「あ、…博樹お兄ちゃん」
 腕を上げさせて、二の腕からわきの下のあたりまでやさしくキスをする。
「ふぇっ…、あっ…」
 脇のあたりにキスをされて、おもわずかわいい声を上げる。
「ここ、だいぶ気持ちよくなってきた?」
「うん、…なんだか、…ぞくぞくする」
「前は、くすぐったいだけだったもんな」
 博樹と肌を重ね合わせるごとに、ひとつひとつ成長していくあずさ。はじめてえっちな事をしてちょうど1年。この1年間で、博樹もあずさも成長してきたのだ。
「ふわ、…あ…」
 1年前と比べてかなり成長してきたあずさの胸に、ちゅっとキスをする。まだ浅い胸の谷間にリボンが通って、それがパンツの中の秘部へと流れている。
「ふぇん…、博樹おにいちゃ…、あ…」
 左の胸のてっぺんにキスをすると、すぐに固くなる。右の胸は手でやさしく揉みほぐしながら、舌と唇でやさしく愛撫する。
「ふあ…、あ…、あっ…」
 博樹の舌が膨らんだ胸のてっぺんを通るたび、あずさのからだがぴくりぴくりと動く。
「あんっ! …ひ、引っ張っちゃダメだよぉ…」
 唇でてっぺんを挟んできゅっと引っ張られ、あずさがいやいやと顔を振る。
「へへ、…ごめんな」
 舌と唇でやさしく舐めまわしたあと、あずさとまたキスをする。まだまだ成長途上のあずさだが、からだだってえっちだって、大人に近づいている。
「あずさ、…大好きだ」
 いつのまにかトランクスだけになっている博樹が、あずさをやさしく抱きしめてささやく様に言う。
「博樹お兄ちゃん、…わたしも大好きだよ…」
 あずさが博樹の背中に手を回して言う。
「ずっと一緒だ…」
「うん、…ずっと一緒だよ」
 もう一度キスをして、からだを離す。
「脱がすよ」
「うん…」
 博樹の手があずさの腰へと伸び、しま柄のパンツを脱がす。しっとりと濡れたそこに、リボンが食い込む様に通っている。その光景が、ものすごくいやらしい。
「えっちな女の子になっちゃったな」
「うん、…博樹お兄ちゃんのおかげだよ」
 リボンの上から秘部を触ると、しっとりとした感触とともに、ぷくっと膨れた芽もわかった。その芽を、やさしくなぞる。
「ひぁっ! や、やぁっ…」
 身をよじらせて、からだに流れる快感を受ける。しっとりとした感触が、一段と強くなっていく。
「あんまりいやらしい格好すると、オレだって燃えちゃうからな」
 リボンをきゅっと秘部へ食いこませて、博樹が言う。
「ひぅんっ! い、いいよ。…博樹お兄ちゃんに、…燃えて、…燃えてほしいんだもん」
 快感の声を上げつつ、あずさが答える。こんな事を言われると、やっぱりえっちな女の子になってしまったなぁと、博樹は思う。
「リボン、取るぞ」
「う、うん…」
 おなかの所で結ばれているリボンを取って、あずさのすべてを見る。こうなると、髪の毛と首、手首、足首につけられているリボンが、かわいさといやらしさを増幅させている。そんなあずさに、思わず抱きついてしまう。
「あっ、…博樹おにいちゃぁん…」
 うなじにキスをして、そのまま肩から胸、おなかを通って、少しだけ濃くなってきた恥丘までキスで道を作っていく。
「ひぁん…」
 そのまま秘部へとキスをすると、何か待ち焦がれていたかのような、うれしそうな声を上げる。博樹もそれがうれしくて、舌先で芽やまわりを舐めまわす。
「ひんっ…、ふぁん…」
 無意識なのだろうか、あずさが腰を浮かして押しつけようとして来る。もっと、もっとという気持ちが、言葉を発せずともわかる。
 あずさをもっと悦ばせるため、秘部に唇を付けて、きゅっと吸う。
「あっ! ひゃぁん!」
 からだ全体がびくんと脈動し、電撃のような快感があずさを襲ったことがわかる。流れ出る液の量も多くなり、あずさも高ぶっている。
「きもちいい? あずさ」
「う、うん、…き、気持ちいいに決まってるよぉ…」
 聞いてみたくなるのが、男心。やっぱり、きもちいい、と言ってくれるとうれしくなる。さらにあずさを気持ちよくさせようと、秘部に指をゆっくりと入れる。
「あっ…、ひゃっ…」
 さっきと違って、あずさがぷるぷると震えながら身を縮めるようにする。指という微妙な太さのものが入ってくることに、まだ慣れていないのだ。それでも、気持ちよさそうなことに変わりはない。そのまま、指をゆっくりと出し入れする。
「あんっ…、ひゃぁん…、ひぅぅ…」
 指があずさの中を出入りするたびに、甘美な声があずさから漏れる。
「ひ、博樹おにいちゃぁぁん…」
「ん、どうした?」
 なにか、ものすごく切なそうな声のあずさ。博樹も思わず、やることを止めてしまう。
「ゆ、…指なんか入れないで…、その…」
「…あぁ、わかったよ。あずさ」
 はっきりと口に出せないのは女心。そんな心を察して、博樹はトランクスを脱いで自分のモノをあらわにする。いままであずさにしてきた愛撫のせいで、博樹のモノも相当高ぶっている。
「入れるよ」
「うん…」
 手早くゴムを着けて、あずさの上に覆い被さる。そして、そのままゆっくりと挿入する。
「ひゃぁぁぁ…、んんぅ…」
 モノがぬぷぬぷっと飲みこまれて、あっという間に先端が軽く奥に当たる。それでも、ほとんど根元まで入ってしまった。
「だいぶ、…入れやすくなった?」
「うん、…そうかもしれない。…それに、…すごく気持ちいいよ」
 顔を紅潮させて、なにかうれしそうな表情のあずさ。えっちにも貪欲になり、からだも心も、知識だって成長している。
「ふあぁん…」
 博樹が腰をひいて、モノを引き出そうとする。そして、再び戻していく。液で満たされ、淫らに動くあずさの中をモノが進んでいく。
「あっ、あんっ…」
 博樹の動きに、ひとつひとつ声をあげるあずさ。博樹があずさに快感を与え、あずさも博樹に快感を与える。ふたりで仲良く、ひとつになって気持ち良くなる。
「あふぅっ…、きもちいいよ…」
「あぁ、オレも気持ちいいぞ」
 あずさに体重をかけない様に気を付けながら覆い被さり、つながったままキスをする。
「んふぅ…、…んっ」
 唇と唇が、舌も使って絡み合う音が響く。そして、下の結合部も、淫らに動く音が響く。
「んくぅぅ…」
 博樹に口を塞がれて、声を上げられずに唸るあずさ。かわいい声を上げてくれるあずさもかわいいけど、こうやってちょっと困ってしまうあずさも、すごくかわいいのだ。
「ぷはわぁ…」
 口を解放してもらい、あずさが息をつく。
「あずさ、ちょっと…」
「ふぁ…、な、…なぁに…?」
 つながったまま、博樹があずさの背中を抱え、からだを起こす。壁に寄りかかって、あずさをぎゅっと抱きしめる。
「ふはぁ…」
 あずさ自身の体重が結合部に加わり、より深くモノが飲みこまれる。
「こうしていたら、ぎゅっと抱きしめていられるもんな」
「うん、…好きだよ。大好き、…博樹お兄ちゃん」
「あぁ、…オレも大好きだ」
 ふたりがぎゅっと抱きしめあい、そのままゆっくりと動く。あずさの体温と女の子らしい柔らかい肌の感触が博樹の体に伝わり、博樹も幸せな気持ちで満たされていく。
「はぁぁ…、はぁぁ…」
 さっきと違って小さな動きしか出来ないが、逆にそれがあずさには気持ちいいらしく、博樹の耳元で気持ち良さそうな息を吐いている。
「んっ…、んくぅぅ…」
 小さくあずさのからだが揺れ動くたびに、先端の固くなった胸が博樹の胸板で擦れて、それも快感のひとつになる。ぷにっとした柔らかい感触が、博樹にもいい感触として伝わっていく。
「あっ…、だ、だめ…」
「ん、…どした?」
 博樹の首もとにしがみついたあずさが、小さく声を漏らしたのを聞いて、博樹も動きを続けながら聞く。
「き、きちゃいそう…」
「あ、…あぁ。…オレももう少しだから…」
 博樹がそう言って、あずさとキスをする。博樹が動くたびに、あずさの吐息が博樹の口に入ってくる。口と下で繋がり、ふたりのボルテージが上がっていく。
「ふぁ、…あぁん…、も、もうダメ…」
 耐え切れなくなったあずさが、口を離して壊れた人形のように上半身を踊らせようとする。
「あ、あずさ…」
 耐え切れなくなったあずさをやさしくつつむように、博樹があずさをやさしく抱きしめる。
「あんっ…、ひ、博樹お兄ちゃん…」
 博樹にやさしく抱かれ、あずさも博樹の体をぎゅっと抱きしめる。
「ふぁぁ、博樹おにいちゃぁん…」
 博樹を抱きしめる力がぎゅっと強くなり、あずさの中で博樹のモノをぎゅぅっと強く締めつける。
「あずさ…、あずさ…」
 あずさに耐えられず、博樹もすぐにそれを追った。
「…はぁ、…はぁ」
「あずさ、…大好きだぞ」
「う、うん…、私も、…私も大好きだよ…。愛してるよ…」
 あずさの口から、「愛してる」という言葉が出て、博樹が少し驚く。紅潮させた顔で博樹に抱きついたまま、幸せそうな表情のあずさに、博樹も頭をやさしく撫でながら言う。
「愛してるぞ、…あずさ。ずっと一緒だからな」
「うん、…ずっと一緒だよ」
 つながったまま、今日何度目かのキス。ふたりの気持ちがずっとこうである限り、いつまでも一緒でいられるだろう。博樹はそう思った。
「博樹お兄ちゃん…」
「ん?」
 あずさが、博樹の胸にほお擦りしてくる。ふと、あずさの左手薬指に光る指輪が見えた。それを見て、自分の左薬指につけられている指輪を見る。そして、幸せそうなあずさの顔。もう一度改めてあずさの指輪を見る。博樹の胸に、何かあったかいものが感じられた。
 あずさのお父さんと話をしてみないとわからないけれど、…きっと、あずさと一緒にいられる。今、はっきりとそう思える何かがあるのだ…。
 物語の終盤。ふたりの幸せな結末は、もうすぐ。


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