「走るパトカぁ闇夜のひ〜め〜い〜」
11月も中旬になった、週末の夜。博樹の部屋で、なにやら聞こえる怪しい歌。本人はノリノリなのだろうが、まわりからみれば怪しいことには間違いない。ただ、この部屋には博樹自身ひとりしかいないからいいだろうが。
「ここの色はもうちょっと…」
歌いながら、独り言をつぶやきながら、博樹はメインに使ってるパソコンに向かい集中する。画面は、キャラクターのデザインがされている最中。スキャナで取りこんだ原画に、ペインターで色を付けていた。博樹はイラストレーターではないのだが、絵はけっこう描く。事務所が雑誌なんかに出すイラストの一部にも、何気に博樹のイラストが使われていることもある。
「博樹お兄ちゃ〜ん」
あずさが、博樹の部屋に顔だけひょこっと出す。博樹のノリノリの歌が聞こえていたのか、顔が少しほころんでいる。
「なにか飲み物いる?」
「あぁ、そうだな。紅茶もらうよ」
「うん、わかった」
あずさが顔を引っ込める。しばらくして、紅茶を入れたカップを持ってきた。
「はい、どうぞ」
「おう、ありがとう」
博樹が紅茶の入ったカップを受け取ると、あずさの頭をぽむぽむっと撫でた。あずさは、こういう事に関してはけっこう気がきく。
「どのくらい進んだの?」
あずさも、ココアの入ったカップを持ってパソコンの画面を覗く。
「ん、まだ顔に色つけたくらいだからな…」
紅茶をすすりながら、タブレットを動かしていく。
「ごめんな、遊ぶ相手させられなくて」
「ううん、いいよ。お兄ちゃんもお仕事あるんだし」
「明日は、1日遊べると思うから」
「うん、ありがと」
あずさは、カップを両手で持ってにこっと笑った。
「あ、わたしテレビあるから戻るね」
にこっと笑って、あずさがリビングへと戻った。
「さぁて、今日はこの辺にしとくか」
首をぐるんと回して、博樹が伸びをする。時間は、11時過ぎ。博樹としてはなんでもない時間。せっかくの週末なので、ゆっくりしようと思ったのだ。
「あれ? そういえば、あずさはまだ起きてるのか?」
いつもなら、10時を過ぎれば眠たくなって寝てしまうのだが、今日はまだ寝たような気配がない。いつもなら、寝る前に「おやすみ」と一声かけてくれる。博樹は自分の部屋から出てリビングの方を見る。リビングは、まだ明かりがついていて、テレビの声も聞こえた。
「珍しいな。まだ起きてるのか?」
週末で夜更かしをするつもりなのかな? と博樹は思った。
「おーい、あずさ〜」
そう言いながらリビングに入ると、あずさはクッションを枕にして寝ていた。テレビを見ている途中で寝てしまったのだろう。カーペット敷きの床の上に、パジャマ姿のあずさがころんと寝ている。すでに、「すーすー」という寝息も聞こえ、テーブルの上には、ココアが入っていたカップが空っぽで置かれたままになっていた。
「…やっぱり寝てたか。あずさが11時過ぎて起きてたのって、あんまり見たことないな…」
博樹はあずさの寝る姿を見下ろして言った。
「しかし、こんなところで寝かせるわけにもいかないしな…。風邪引いたら大変だし」
11月も半ば。エアコンは入っているが、パジャマだけでこんな所に寝ていたら、さすがに風邪を引いてしまうだろう。博樹はあずさを起こそうと、手を伸ばした。
「…やっぱかわいそうだから、起こさないでおくか」
あずさのかわいい寝顔が目に入った博樹は、そうつぶやいて手を引っ込めた。
「あずさの寝顔ってこんなに近くで見たことなかったけど、…かわいいな」
普段から博樹自身もかわいいと思っているあずさだが、こうして近くで寝顔を見ると、やっぱりかわいい。まだ11歳、小学5年生のあずさだが、こんなに近くで顔を見ると博樹はどきんとしてしまう。単純に「かわいい」というよりも、むしろ「恋をしている」というどきんだと、博樹も感じた。博樹は、自分があずさのことがものすごく気になる事を感じている。自分がロリコンである、と言う部分があるせいかもしれないが、11歳の女の子、小学5年生のあずさに、博樹は確かに恋をしていた。
「ふぅ…」
あずさの寝顔を見ながら、博樹はそんな事を思っていた。
「…さて、かわいいあずさのために、部屋まで運んであげるか…」
いつまでもリビングに寝かせておくわけにも行かず、博樹はあずさをそっと抱きかかえる。なるべくあずさを起こさない様に。しかし、あずさはもうすっかり眠りこけているのか、目を覚ますことはなかった。規則正しい、すーすーという寝息が、博樹に抱きかかえられた状態でも続いている。博樹はあずさの部屋まで、眠っているあずさを運ぶ。
(…あずさって、意外と軽いんだな)
まだこどものあずさ。少々非力な博樹が抱きかかえても、それほど苦になるほどの重さではなかった。というよりも博樹としては、あずさがどんなに重かろうと苦にならないかもしれないが。
(やわらかいんだな、女の子のからだって。ふわふわした感じがする)
肩と膝であずさを抱きかかえている博樹は、あずさのからだが博樹の胸に接触し、女の子らしいぷにぷにっとした感触を伝えていた。11歳といえども、女の子のからだはけっこうやわらかい感じなのだ。
「よいしょっと…」
あずさをベッドに寝かせる。部屋は暗いままだが、明かりをつけるのもかわいそうなので、このままにしておくことにした。ふと、博樹の視線がパジャマの胸元にいく。首から胸元、うなじにかけてのラインが、女の子といえどもなにかぐっと来るような感覚を与える。そのまま視線をすぐ下ろすと、わずかに自己主張をはじめている胸のふくらみがある。
(やば…。オレ、今すごく興奮してるかも)
心臓がどくどくと鼓動を高め始める。その胸に手を伸ばしたい衝動に駆られる。あずさは、…あいかわらず寝息を立てて眠っている。
(…すこしくらいなら。…いいかな?)
衝動に耐え切れなくなった博樹が、そっと胸の小さな膨らみに手を伸ばす。パジャマの上から手をかぶせると、わずかな胸の膨らみが感じ取れた。これから発達しようとしている胸。まだ発達途上もいいところだが、ほんの少しの柔らかさらしきものを感じることが出来た。
(…意外と感覚ってあるんだな)
ぺったんこだと思っていた博樹は、その感覚に少し驚く。心臓のドキドキという高まりが、どんどん高くなって行く。博樹は、あずさの胸の膨らみに手をかぶせたまま、しばらくそのままになっていた。
(もっとほかの部分も…)
さらに、もっと強い衝動に狩られる。今は、パジャマというたった一枚の生地を境に間接的に触っている。パジャマの生地も比較的薄いものだが、直接触ってみたいという衝動が出てくる。さらには、もっと違うところも触ってみたいとも思ってくる。
(…いや、だめだ。そんなことしたら…)
しかし博樹は、その衝動をぐっとこらえて、手を引っ込めた。
「はぁ…」
(あずさ…。ごめん…)
博樹は心の中であずさに謝った。そして、あずさに布団をかけてあげると、そっと頭を撫でてあげた。
(…やっぱりかわいいな…、あずさって)
暗がりの中で、博樹はあずさの寝顔を見てそう思った。そして、自分があずさに恋していることを確信した。それは、ロリコンとしてではなく、からだが目的なのでもなく、単純にあずさが好きだから。そう博樹は感じた。
「おやすみ、あずさ」
博樹はそっと言うと、あずさの部屋から出た。博樹も、自分の部屋で少し反省したあと、すぐに眠りについた。
翌日。
「…ふにゅ、…あれ?」
目を覚ましたあずさが、少し不思議な感覚で目覚めた。
「…?」
あずさから見れば、テレビを見ながらうとうとしていたのに、目覚めるとベッドの上だった。不思議に感じて当たり前かもしれない。とりあえず起きあがり、部屋を出る。
「博樹お兄ちゃん、おはよ」
「おう。おはよ」
眠そうな顔のあずさの顔を見て、博樹も微笑んで返す。
「ねぇ、博樹お兄ちゃん。わたし、昨日リビングで寝てなかった?」
あずさが、不思議そうな顔で博樹に聞く。
「あぁ。すっかり寝てたみたいだし、起こすのもかわいそうだったから、あずさの部屋まで運んだよ」
博樹が、昨日のことを思い出して少し言いにくそうな感じで言った。
「そうなんだ…」
本当に昨日のことを知らないあずさは、少し頬を赤らめた。あずさとしてみれば、大好きな博樹に抱かれて運ばれたことや、寝顔を間近で見られたことが、少し恥ずかしかった。
「博樹お兄ちゃん…」
「ん?」
「…ありがと、ね」
「あぁ」
あずさがにこっと微笑むと、博樹も笑って返した。
(あずさ、…ごめんな)
博樹はもう一度、あずさに心の中で謝った。