紗夜香の星空喫茶
 「紗夜香の星空喫茶」へようこそ!

 ここでは夜空を見るときに役立つ、ちょっとしたお話を紹介していくつもりです。これを知っていれば、田舎なんかに行って星を見るとき、お友達から感心されること、うけあいですよ。

 さて、第16回から続いてきた「惑星シリーズ」もいよいよ太陽系の端っこまでやってきました。今回は、太陽から最も遠く、そしてもっとも謎に包まれた惑星、冥王星のお話です。


 ■ 26杯目 月より小さな最果ての星−冥王星−

冥王星 基礎データ

赤道半径:1195km(地球の約19%)
質量:1.49×1022kg(地球の約0.25%)
平均密度:1.10g/cm(地球の約20%)

反射能:0.3
平均極大等級:13.6

自転周期:6.3872日
公転周期:248.6446年
軌道離心率:0.24901
軌道傾斜角:17.1450°
太陽までの平均距離:59億1352万km(地球の約39.5倍)

衛星数:1

 冥王星はみなさんご存知のとおり、太陽から最も遠いところを回る惑星です。海王星の発見直後から、すぐにこうした海王星外を回る惑星の発見の試みが始まりました。みんな、海王星の発見で勇気づけられていたんですね。

 最も初期に海王星外惑星の存在を唱えたのは、海王星を発見した当のルベリエでした。実は海王星が発見された直後に、海王星の衛星トリトンが発見されたのですが、この衛星の運動から計算される海王星の質量は、ルベリエたちの予測より2%も大きかったのです。質量が大きいと重力も強くなりますから、これでは天王星の動きのフラつきももっと大きくなるはずです。そこでルベリエは、海王星外にも惑星があって、これが海王星とともに天王星の軌道を乱しているのだと考えました。

パーシバル・ローウェル

 このように海王星外に惑星があると考えたのはルベリエだけではありません。特に熱心だったのは、アメリカの実業家パーシバル・ローウェルです。

 ローウェルはもともとは貿易商ですが、ひと財産を築き上げた後、その莫大な私財を投げ打って、趣味であった天文学にのめりこんでいきました。特にこの新惑星の探索と、運河があるといわれた火星表面の観測には熱心でした。

 ローウェルは自ら建設したアリゾナ州フラグスタッフの観測所で海王星外の惑星「惑星X」の探索を行いましたが、とうとう生前には惑星を発見することができませんでした。この仕事を引き継いだのが観測の手伝いとして雇われていたクライド・トンボーです。

 ところで、新惑星を捜索するといっても、ここまで遠距離の惑星だと望遠鏡で拡大してもほとんど点にしか見えませんので、見かけの大きさだけで恒星と区別するのは非常に困難です。かといって、海王星の発見時にガレがやったように星図と比較して新惑星を見つけようとしても、そんな暗い星まで載っている星図はないですから、これも難しい…。そこでトンボーたちが用いたのが「ブリンク・コンパレータ」(点滅比較計)という器械です。この器械はステレオ写真を見る要領で2枚の写真を覗く装置で、この装置に時間をおいて撮影した2枚の星空の写真をセットすると、写真中に移動する天体が写っていた場合、これが飛び跳ねているように見える…というものです。

クライド・トンボー

 ローウェルの予測によれば、惑星Xは極端に黄道から離れたところを動くわけではないハズなので、トンボーは黄道に沿って空の写真を撮りまくり、片っ端からブリンク・コンパレータにかけていきました。そして、捜索を始めてから1年ほどたった1930年2月18日、ついにトンボーは15等の明るさでかすかに光る新惑星の姿を、写真乾板上に見つけ出したのです。

 もっとも、ブリンク・コンパレータで動いている星が見つかったからといって、それが新惑星とは限りません。もしかしたら、すでに知られているただの小惑星かもしれませんし…。そのため、怪しい天体を見つけたら、追跡観測をして軌道を求めてチェックする…これを延々と繰り返さざるをえませんでした。

 結局、トンボーは、新惑星を見つけ出すまでにのべ700時間もブリンク・コンパレータの前に立っていたといいます。ものすごい根気ですね。


 新惑星発見の発表は、ハーシェルによる天王星の発見からちょうど149年目の記念日にあたる1930年3月13日に行われ、数ヵ月後に「Pluto」(プルート)という名がつけられました。プルートはローマ神話の冥府の神様で、ギリシャ神話のハーデスにあたります。太陽系の最深部、暗い空を動く星ですから、イメージ的にはピッタリですね。ちなみに、「Pluto」の頭の2文字「PL」は、パーシバル・ローウェル(Percival Lowell)の頭文字になっています。

 ところで天王星や海王星の場合、発見以前に恒星として星図に記録されたりしていましたが、冥王星ほどの暗さとなるとさすがにそうした記録はありませんでした。しかし1919年、あともう少しのところで冥王星を発見し損ねていたことが分かりました。ローウェルが新惑星発見に熱を上げていたころ、同じアメリカの天文学者ウィリアム・ヘンリー・ピッカリングも新惑星の捜索を独自に行っていました。彼は捜索のために、ウィリアム天文台に依頼して空を撮影してもらっていたのですが、そのうちの2枚に、冥王星が写っているはずだというのが分かったのです。調べてみると、1枚は写真乾板の傷と重なり、もう1枚は恒星と重なって写っていたため、このときは発見されなかったのです。惑星の発見も、ちょっとした運次第ということですね(^-^;

 しかし、冥王星発見後にその軌道を調べてみると、ローウェルの計算した惑星Xの軌道とは大きく違うことが分かりました。また、15等という明るさから推測すると、冥王星の大きさはかなり小さく、天王星や海王星の軌道を乱すほどではないということも分かってきました。結局のところ、冥王星の発見にはローウェルの予測が直接役に立ったわけではなく、ひとえにトンボーの根気と努力の賜物だったということです。


 それにしても、この冥王星の軌道は妙でした。およそ惑星らしくないのです。軌道は大きくひしゃげていて、太陽から最も遠ざかるときは49.3855天文単位(約73億km)も離れているのに、最も近づくときには29.6945天文単位(約44億km)にまで接近します。この距離は太陽−海王星間の距離より近いので、この前後には冥王星は海王星の内側にまで入り込んできます。1979年1月ごろから1999年2月ごろまで、太陽系の惑星の順番が「水金地火木土天冥海」になっていたのは記憶に新しいところです。また、太陽系の惑星はほぼ同一平面状を動いていますが、冥王星の軌道面はこの面から17度以上もズレています。

冥王星の軌道 冥王星の軌道
Fig. 冥王星の軌道
 この図は太陽系をそれぞれ上と横から眺めたものです。冥王星の軌道(緑色)は強い楕円形で、海王星の軌道の内側にまで入り込んでいます。また、他の惑星がほぼ同一平面上を動いているのに対し、冥王星はまったく違う平面上を動いています。

 一見、冥王星と海王星は衝突しそうに思えますが、冥王星の軌道面は海王星の軌道面に対しても15度ほど傾いていますので、実際には軌道は交差しておらず、ぶつかることはありません。

 しかも、発見された当初は少なくとも地球ぐらいはあるだろうと思われた冥王星の大きさも、その後の観測で半径1200kmあまりしかないことが分かってきました。地球の月の半径が1738kmですから、冥王星はそれよりも小さいことになります。さらに重さに至っては、月の5分の1くらいしかありません。

 こうなってくると「冥王星は本当に惑星といえるのか?」という疑問が当然湧いてきます。この議論に油を注いだのが「エッジワース・カイパーベルト天体」の発見です。

 1951年にアメリカの天文学者カイパーとエッジワースは、冥王星の軌道の外側に短周期彗星の巣があると考えました(「星空喫茶」第13回参照)。これを「エッジワース・カイパーベルト」と呼びますが、1992年にこれに属すると考えられる小惑星「1992 QB1」が初めて発見され、その存在が実証されました。その後、カイパーベルトに属する天体が続々と発見され、現在までに500個以上が確認されています。そして、これらの中には冥王星によく似た軌道を持つものがあるのです。このことから冥王星は惑星として扱うよりもカイパーベルト天体のひとつとして扱ったほうがいいのではないかという意見が出てきました。

カイパーベルト天体の軌道
Fig. カイパーベルト天体の軌道
 一例として、カイパーベルト天体の1つ「1997 CW29」の軌道(青色)を示します。この天体は特に冥王星の軌道に似ていますが、他にも似たような軌道を描くものが多数存在します。

 また、カイパーベルト天体は小惑星として分類、登録されていることから、1999年には冥王星を小惑星のリストに入れるべきという意見も出されました。ちょうど前年までに小惑星の登録数が9826に達したので、冥王星を記念すべき10000番目の小惑星として登録したらどうかというのです。

 しかしその後、国際天文学連合が「太陽系第9惑星としての冥王星の立場に変更はない」との声明を発表したことで、この騒動はとりあえず収まりました。専門家が学術的に扱う上では、冥王星はカイパーベルト天体の1つとして捉えたほうがよいのでしょうけれども、一般的には「太陽系第9惑星」の座はしばらく安泰と考えてよさそうです(^-^;

 最近、エッジワース・カイパーベルトでは次々と巨大な天体が見つかっています。例えば、2001年5月に発見された小惑星2001 KX76は直径約1200km、2002年初めに発見された2002 LM60は直径約1300kmと、いずれもそれまで最大の小惑星とされてきたセレス(直径約1000km)を上回る大きさです。もしかしたら将来、冥王星をも上回る大きさのカイパーベルト天体が見つかるかもしれません。

 もしそうなったら、また「冥王星は惑星か?」という議論が再燃するのは必至ですが…(^-^;



 さて、こんな冥王星ですが、その実態は多くの謎に包まれています。これまで惑星探査機が訪れたことがないので、地上からの観測に頼るしかなかったためです。それでも、1999年までの20年間、冥王星が海王星の内側に来ていたという好条件や、ハッブル宇宙望遠鏡の活躍によって、ずいぶんと色々なことが分かってきました。

 まず、冥王星がどんな物質からできているかですが、以前は地球や火星と同じく金属や岩石が主体の「地球型惑星」だと考えられていました。そのため「木星より外側の惑星はみな『木星型惑星』なのに、どうして冥王星だけ『地球型惑星』なのだろう?」と不思議がられたものです。しかし現在では、冥王星は氷と岩石が寄り集まったもので、その表面をメタンの氷が覆っているのだろうと考えられています。どちらかというと、惑星よりも彗星の核に近いイメージですね(^-^;

 また、冥王星には大気があるらしいことも分かっています。成分はハッキリしていませんが、おそらくメタンや窒素を含んでいるものと考えられています。ただし、気圧は地球の10万分の1以下という薄さです。

 そして、冥王星のもっとも大きな特徴といえるのが、自身の半分ほどの大きさもある巨大な衛星、カロンの存在です。これほど大きな衛星を持った惑星は他に例がなく、冥王星−カロン系は「惑星と衛星」というよりも「二重惑星」と言ったほうがよいのかもしれません。

 純粋に「大きさ」だけから言えば、木星の衛星ガニメデが太陽系の衛星中で一番大きいのですが、惑星本体との大きさの比で言えば、カロンが最大になります(冥王星:半径約1200km、カロン:半径約700km)。

 ちなみに、大きさの比の第2位は地球の月だったりします(地球:半径6378km、月:半径1738km)。


 このカロン、大きさも異常ですが冥王星を回るその軌道も異常です。公転周期はわずかに6.4日。そして冥王星−カロン間の距離は19000km程度しかないのです(地球−月の距離は約38万km)。こんなに低い軌道を回っている衛星は、他には火星のフォボス(軌道長半径9378km)とダイモス(軌道長半径23459km)くらいです。もっとも、フォボスとダイモスは直径数十kmの小天体ですから、巨大衛星カロンとは同列に扱えません(^-^;

 また、カロンは冥王星の赤道面に沿って回っていると考えられますが、カロンの軌道を調べてみると、冥王星の軌道面に対して118度も傾いていました。つまりこれは、冥王星の自転軸も軌道面に対して118度傾いているということで、冥王星も天王星と同じく「横倒し」になって太陽の周りを回っているのです。

 冥王星は、自身の軌道も異常なら自転軸も異常、衛星の大きさも異常…と、まさに異色ずくめの惑星といえるでしょう。2006年ごろにはアメリカ航空宇宙局(NASA)が冥王星へ向けて惑星探査機を飛ばすことを計画しています。いずれこうした惑星探査機が、この不思議な天体の謎を解き明かしてくれるに違いありません。

 …というわけで、今月はここまで。また来月お会いしましょう♪

※本ページ中の図は株式会社アストロアーツ制作「StellaNavigator Ver.5」(アスキー出版局)を用いて作成しました。



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